5月6日の決算以降、総合商社の決算分析報告記事を書いておりましたが、住友商事の分だけ失念しておりました。
もう皆様ご存知の通り、住友商事は、期中に2020年度では、総合商社唯一の赤字転落を発表していました。
丸紅にも完敗なのは勿論、豊田通商、双日も黒字であったため、非常に今後の新中期経営計画(2021 年度~2023 年度)含め、不安が残る形となってしまいました。
こちらもご存知の方多いかとは思いますが、2021年2月の第3四半期決算説明会では下記の通り、経営陣の減俸を発表しておりました。
経営にも責任を取った形となった住友商事の経営陣。
2020年度は赤字転落となっても、2021年度は無事V字回復となるか。
早速、見ていきましょう!
住友商事 2020年度決算
2020年度 損益
住友商事の2020年度決算は、当期利益▲1,531億円連結純利益1,726億円(前年差▲3,244億円)と総合商社唯一の赤字転落と非常に厳しいものとなりました。
一過性を除く業績であれば1,980億円と黒字で仕上がる見込みだったそうですが、毎回投資案件の減損が恒例となっている総合商社では一過性損失はつきもの。
今年は一過性損失▲3,510億円と巨額の損失となり、一過性を除く業績を一気に消して赤字決算となりました。
この一過性損失▲3,510億円は資源ビジネスでも、非資源ビジネスでも大口の減損として計上されており、残念ながら、資源・非資源ビジネスの両方で一過性損失を計上してしまう住友商事の事業ポートフォリオの脆弱性が明らかになってしまいました。
資源ビジネスでは、資源・化学品部門でのマダガスカルニッケル事業▲850億円
非資源ビジネスでは、インフラ部門でのEPC工事遅延に伴う追加コスト▲540億円
が今回の損失の大きな要因として挙げられました。
2020年度 キャッシュ・フロー/財政状態)
住友商事の2020年度基礎収益キャッシュフローは、+1,308億円(前年差▲約1,000億円)
キャッシュアウト投融資実行は、▲2,600億円(前年差+900億円)
財政状態の健全性を表現するD/Eレシオは0.9ポイントと前年差+0.1ポイント改善しました。
稼ぐ力も昨年比減、新規ビジネスのための投資額も昨年ほど投下していない、というキャッシュマネジメントとなりました。
財政状態が多少改善したのが唯一の収穫ですが、損益も悪ければキャッシュ面でも課題の残る決算となり、2020年度が住友商事にとっていかに厳しい一年であるかがわかります。
なお、2020年度の配当金については、年初からの発表通り70円と据え置きで、業績の悪化を原因とした減配という最悪の事態は免れた形となります。
住友商事 中期経営計画2020 総括(キャッシュ・フロー)
2020年度は、住友商事の2018年度〜2020年度までの3ヶ年の中期経営計画の最終年度でしたので、ここでこの3年間の中期経営計画との進捗を確認しておきましょう。
着目すべき点は、基礎収益キャッシュフローです。
住友商事の株価が最も高かった2018年をピークに基礎収益キャッシュフローは2020年度にかけて3年間下降の一途。
今年は2018年度の半分にも満たない1,308億円となっております。
総合商社5位が定席であった丸紅でも過去5年間は基礎収益キャッシュフローは3,000億円以上をコンスタントに稼いでいることを考慮すると、住友商事の稼ぐ力が落ちている点は看過できません。
他の総合商社がコロナであろうとコロナ前と同等もしくは微減レベルの基礎収益キャッシュフローを稼いでいる点を鑑みると、住友商事は「稼ぐ力」という点で大きな課題を残して次期中期経営計画に臨むことになります。
住友商事 新中期経営計画(2021 年度~2023 年度)
新中期経営計画(2021 年度~2023 年度)
住友商事の2021年度業績見通しは、黒字化して当期利益2,300億円なり、ちょうど丸紅と同じ利益を計画していることになります。
利益はもういいとして、問題は基礎収益キャッシュフローです。
下記の通り、2021年度1,600億円、2022年度2,200億円、2023年度2,600億円はあまりにも物足りなすぎます。
再度申し上げますが、丸紅でも過去5年間は基礎収益キャッシュフローは3,000億円以上をコンスタントに稼いでおります。
それを考慮すると、住友商事は総合商社の中で最も稼ぐ力が劣っており、今後3年間はずっと総合商社最下位で推移するのではと憂慮しております。
2021年度株主還元
住友商事の2021年度株主還元は、2020年度と同じ70円で、今後3年間もこの70円を下限として維持するそうです。
当期利益が3,000億円を超えた2018年度は75円という過去最高の配当を支払っております。
先ほどの新中期経営計画(2021 年度~2023 年度)では、当期利益が3,000億円を超えるのは2023年度を計画しており、利益面で考えると2023年度まで増配はなさそうです。
また、株主還元政策については「基礎的な収益力やキャッシュ・フローの状況等を勘案の上、決定」と書かれています。
しかし、先述した通り、住友商事の基礎収益キャッシュフローは最終年度の2023年度ですら2,600億円と2018年度以下なので、株主還元のためのキャッシュを獲得する面では課題が残ります。
正直2020年に総合商社5社に対して、ウォーレン・バフェット氏が投資したことから、これまで以上に株主還元の姿勢を打ち出さざるを得なくなった結果、意地でも配当は維持する方針を打ち出さざるを得ないのだと思います。
しかし、いい顔だけしておいて、株主還元を実際には達成できないという事態だけは避けていただきたいところです。
住友商事 株主提案 脱炭素・パリ協定
3月末に、非営利組織「マーケット・フォース」より、住友商事が下記2点につき対応が不十分だとして具体的な事業戦略および開示を求めた株主提案を行いました。
パリ協定:地球の気温上昇を1.5度以下に抑えることを目標とする
カーボンニュートラル:脱炭素
住友商事はカーボンニュートラルに関しては2050年までに実現すると約束しつつも、中間目標の設定などがなされておらず不十分と言えます。
しかも、競合他社は対応しているのに、具体的な政策が住友商事からは示されていないため、住友商事への風当たりは今後より一層厳しくなるでしょう。
米GE
独シーメンス |
石炭火力発電所の新規受注停止を表明 |
三井物産 | 2030年までに全ての石炭火力発電資産売却を表明 |
伊藤忠商事 | 2024年までに3つの炭鉱全てを売却すると表明 |
双日 | 2021年3月、2025年までに石炭関連事業資産を半減すると宣言。2030年までに全て処分すると発表。 |
参考までに、三井物産、伊藤忠商事の決算はこちら
なぜか?
理由は、カーボンニュートラルの阻害となる炭素事業こそ住友商事の大事な収益柱であるからです。
下記に2021年度および2022年度と向こう2年間のセグメント当期利益を示しました。
この石炭事業は一番の稼ぎ頭である「資源・化学品」事業に入っており、この事業こそ今後最も稼ぐ収益の柱となっているのが住友商事がはっきりとした姿勢を打ち出せない理由です。

セグメント別 当期利益又は損失(2021年度通期予想/2022年度利益イメージ)
住友商事 決算総括
2020年度の住友商事の決算の総括ですが、上位商社である伊藤忠商事、三菱商事、三井物産に勝てないのは例年通りですが、まさか丸紅にも完敗という結果になってしまい、経営陣は一層の反省と経営刷新が求められます。
利益は来期は丸紅と同じ2,300億円を打ち出していてまぁそれは良いのですが、肝心なのは稼ぐ力である基礎営業キャッシュフローの強化は本当に課題です。
そして何より、脱炭素の流れで稼ぎ頭である炭素事業を無くした時にどうやって、コンスタントに毎年3,000億円以上の基礎営業キャッシュフローを稼ぐのか、という問題が最も大きな課題です。
2023年度になって、やっと基礎営業キャッシュフロー3,000億円を達成します
は、丸紅が過去5年間3,000億円をコンスタントに稼いできたことから考えると目標が低すぎると言わざるを得ません。
一応、財閥商社なのですから、住友財閥のプライドを持ってなんとか復活して欲しいと思っています!
なんでこんなに私が厳しめに住友商事にげきを飛ばしたかと言いますと、
私、住友商事の株を結構持っているので、配当も株価も上がってもらわないと困るんです。
それはさておき、今回の決算は、今後の住友商事の復活を強く期待したが故に辛口での解説記事になってしまった事をご理解いただきたく、今回の報告は以上となります。
最近のコメント