こんにちは!ネオコンです。
2021年3月期は、伊藤忠商事が、時価総額・株価で史上初の商社No.1を達成し、純利益で三菱商事を撃破しました。
当ブログでも伊藤忠商事の2020年度決算については解説し報告させていただきました。
さすが岡藤マジック!とのことで感心していたのですが、決算日に発表していたこちらの「臨時報告書」を見て、衝撃を受けました。
あの好業績は嘘だったのか!?
そして、あんなに業績が良いのに700億円もの自社株枠を結局135億円しか使わずに終了してしまった件もあり、伊藤忠の首位については、確かに5大商社全社が採用している国際会計基準というルールの上ではそうかもしれません。
しかし、伊藤忠商事については、ちょっとツッコミどころが多すぎて、この真実の部分を知らずして、好業績だからというって伊藤忠商事の株式を今年のボーナスで買う方には是非とも気をつけて頂きたいと思い、急遽記事を書くことにしました。
単体決算 純利益▲713億円の真実
2020年度の伊藤忠商事の決算は前年比減となるも、純利益4,014億円と新型コロナウイルスの影響を最小化し、総合商社トップとなりました。
しかし、これはあくまで国際会計基準を適用した連結決算の数字です。
私が、この伊藤忠商事の決算は実態が伴っていないのではないかと勘ぐる要因が以下の単体決算です。
以下の通り、本邦会計基準つまり日本会計基準を適用した単体決算だと、なんと伊藤忠商事は純利益▲713億円の赤字なのです!!
この原因は何なのか?
2015年に伊藤忠商事が、莫大な金を投じて出資した中国最大のコングロマリット”中国中信集団CITIC”がカギを握るのは言うまでもありません。
それでは、次章にて伊藤忠の良くも悪くも伊藤忠商事のレバレッジとなっているCITICを詳しく見ていきましょう!
CITIC 取り込み利益/減損の会計トリック
中国中信集団CITICとは
2015年に伊藤忠商事が、タイの華僑財閥チャロン・ポカバン(CP)と組み、共同で総額1.2兆円、伊藤忠商事自身は5,800億円を拠出して、20%出資した中国最大のコングロマリットです。
問題は、現在までにおいて伊藤忠商事とCITIC社と間にシナジーが何もなく、株価だけが下がっていることがここ5,6年ずっと問題視されております。
CITIC株価
下記が本日時点でのCITICの株価です。出資した2015年には13.72香港ドルあった株価が半分とまではいきませんが30%以上下落していることがわかります。
そして、伊藤忠商事が出資してから、ずっと2015年の株価を超えることはありません。

20%以上出資している持分法適用会社となるため、投資先企業の価値が著しく下落した時には減損の処理が必要です。
2018年には減損処理をして▲1,433億円もの純利益が吹っ飛びました。
ここで問題になるのは、2021年3月期決算において、2021年3月末時点の株価は以下の通り、7.36香港ドルとなっており、2021年6月現在より低く、まさに取得年の2015年の13.72香港ドルの半値となっており、ここで減損処理をするかどうかが焦点でした。

では伊藤忠商事はどう処理したか?
それは会計基準がカギを握ったようです。
日本基準では減損、国際会計基準では取り込み利益表示の真実
この21年3月末時点の株価が取得原価の半分くらいに値下がりしていることに対して、減損処理を行います。
結論、
伊藤忠商事は
日本会計基準を適用する単体決算では、減損処理▲2,427億円の特別損失を計上
国際会計基準を適用する連結決算では、減損処理するどころか、CITIC Limited取込損益を計上して持分法損益を計上しているのです。
こちらの決算公表日に開示された臨時報告書をご覧ください。
日本会計基準を適用する単体決算
結論、日本の会計基準は、保有株式の30%下落した場合、時価評価が義務付けてられており、伊藤忠商事はこれに沿って、CITIC株の評価額を下方修正し実に2,427億円もの減損を計上しました。
これにより、単体決算は最終赤字へ転落しました。
国際会計基準を適用する連結決算
しかし、国際会計基準(IFRS)に基づく連結決算では、減損処理をしていない。
CITIC株が生み出す将来キャッシュフローの現在価値から算出した理論株価は簿価を上回っているからというのが理由です。
では、なぜ出資してから5,6年間全く株価が簿価を超える事実がなかったのに、将来キャッシュフローの現在価値から算出した理論株価が簿価を上回ると言えるのか。
その根拠は、今年2021年1月にCITICが発表した中期経営計画である「5カ年発展戦略」にあります。
中期経営計画である「5カ年発展戦略」
2020年の566億香港ドル(約7,900億円)の純利益を2025年に1,000億香港ドル(約1.4兆円)へ倍増させる計画があるからです。
しかし、これはどれほどの信憑性があるのか、国際会計基準で問題がなくても、減損処理しなくても良いほど合理性のあるものかは疑問です。
CITICの今後
2020年3月にCITICの知日派として知られていた薫事長・常振明氏が突如解任されました。
これは伊藤忠商事にとって非常に痛手であり、貴重なカウンターパートナーを失ってしまったことを意味します。
CITICは創業者をはじめ華やかな閨閥を持つ「太子党」が経営陣を今まで多く占めてきました。
そして、あの同じ出自の国家主席、習近平とも近しいとされてきました。
しかし、ここにきてまさかの薫事長・常振明の解任は、伊藤忠にとってもかなりの痛手であるに違いありません。
今回は、単体決算で▲2,427億円の特別損失を減損として計上して、連結決算では運よく、国家主導の利益倍増の中期経営計画が打ち出されたことで、その明るい未来をベースに減損ではなく、まさかの取り込み利益を計上できた伊藤忠。
これが総合商社として、企業に持分法適用対象となるくらい出資して、その評価益を純利益に適切に計上していると言っても良いのでしょうか。
私は疑問です。
6月11日自社株買い見送りの真意
そして、CITICの減損リスクを今後も抱え続ける伊藤忠商事に余裕がない点が垣間見えた出来事がこちら、6月11日に発表された自社株買い取得終了に関するお知らせです。
ザックリと申し上げますと、取得期間 :2020年 6 月12 日~2021 年6月11日において最大700億円もの自社株取得の枠を設定しておりました。
が、それをわずか135億円分しか取得せずにこれを終了します、ということです。
自己株式を取得した場合、ご存知の通り、株主資本が減少するため、ROEの分母が減り、ROEを多く見せて、株主からの資本をより多くの純利益創出に結びつけていることを示し、企業価値を向上させることができます。
株主にとっては株価上昇の刑行きとなり歓迎されるべきことですが、この700億円の枠を全て使い切らずに終えてしまうとのこと。
ちなみに、これは2020年6月12日に発表されたものですが、実際は2019年6月12日~2020年6月11日で設定されていた700億円の自社株買いを1円も取得せずに、持ち越しただけだったので、市場からは発表日の6月11日から伊藤忠株式の失望売りが多発し、株価は下落しました。
ツイッターでは、トップになれたし、時価総額首位も取れたし、現状これ以上、株主還元を行う必要はないという伊藤忠商事の未来を楽観視した声が多数見受けられましたが、私は違うのではないかと思います。
先述した通り、伊藤忠商事はCITICから撤退しない限り、常に減損というチャイナリスクを抱えつつ今後も経営の舵を取っていくことになります。
前章と重複してしまいますが、今回はラッキーで減損損失を連結決算に反映させずに済みました。
2021年3月期単体決算で計上した2,400億円もの純損失は、来期純利益5,000億円を狙う伊藤忠商事の純利益の半分に相当します。
今後将来、起こりうるCITIC関連の減損損失で損益も株価も大打撃を受けて暴落した株価を向上させる材料の一つして温存しておきたい、というのが伊藤忠が今回の自社株買い取得見送った真意だと私は思います。
単体決算ベースでの総合商社順位
次に、下記に連結決算ベースと単体決算ベースの純利益を揃えてみました。
連結決算ベースだと首位の伊藤忠商事だけが、赤字になっていることがわかります。
各社とも連結決算ベースと単体決算ベースとで差異があると思うので、一概には比較できませんが、どの会社も連結決算と単体決算で相関があり、両決算との間で相反する損益が出ているのは伊藤忠商事だけです。
億円 | 伊藤忠商事 | 三井物産 | 丸紅 | 三菱商事 | 住友商事 | |
通期連結業績 | 当期利益 | 4,014 | 3,355 | 2,253 | 1,726 | -1,531 |
通期個別業績 | 当期純利益 | -713 | 1,398 | 856 | 3,934 | -1,256 |
このことからもいかに伊藤忠商事が実態が伴っていない、不可解な連結業績当期利益4,014億円であることがわかります。
伊藤忠商事の業績見通しと今後の株価について
最後に、今回のまとめです。
✔︎連結決算では、4,014億円の黒字なのに、単体決算だと、▲713億円の赤字
✔︎CITICの減損に関して単体決算の日本会計基準と、連結決算の国際会計基準とで乖離あり
✔︎連結決算で減損ではなく、取り込み益が計上されている。根拠はCITICの国家主導の5ヶ年中長期経営計画で純利益が倍増するという計画のみ
✔︎2年にもわたる自己株取得見送りの真意は、将来に起こりうるCITICの減損リスク時の株価維持対策と本ブログでは思料
最後に、伊藤忠商事の株価の今後の見通しについて言及したいと思います。
伊藤忠商事の株を取得するということは近い将来、今回のような日本基準では減損だが、国際会計基準ではセーフという綱渡りが成功せずに減損して純利益が▲2,427億円くらい飛んで、株価が半減するリスクも覚悟しなければなりません。
こんな中国共産党の政策に依存したCITICの現在の評価額は非常に危険であり、取得するということは、2021年3月期に▲2,427億円の特別損失を計上した時ど同様の金額の純利益が飛んで、株価が下落することを肝に銘じることです。
何も私は伊藤忠商事を全否定しているわけではありません。
皆様の貴重な私財を伊藤忠商事株に投じて、このリスクを知らずして塩漬けになることを避けていただきたいのです。
2021年3月期に連結業績ベースだと首位に躍り出ることができても、単体では赤字であったという事実を知って頂きたく本稿にてご報告させて頂きました。
以上です。またお会いしましょう!
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