さて、4月30日に、コロナ禍を代表する産業である航空業界の我が国の双璧をなすANAホールディングス株式会社の決算がありました。
新型コロナウイルスが流行して一番打撃を受けたのが外食、レジャー、運輸業界であり、その運輸業界の陸運、空輸は2019年度第4四半期ごろから影響を受け、昨年の決算発表時に2020年度の業績見通しは未定であったのは記憶に新しいかと思います。
私も海外出張の際には、JALさん、ANAさんに大変お世話になっておりますので、とにかく業績を回復して頂いて、また出張の際にはラウンジや機内サービスでお世話になるつもりですので、ヘビーユーザーの一人として一刻も早い業績回復を願っております。
それでは、定量的にANAホールディングスの2020年度の業績と来期の見通しについて早速見ていきましょう!
ANAホールディングス 2020年度決算
2020年度決算 経営成績
ANAホールディングスの2020年度の決算業績は、
売上高7,286億円(前年度▲12,455億円)
営業損失▲4,647億円(前年度▲5,255億円)
親会社株主に帰属する当期純損失は、▲4,046億円(前年度▲4,3225億円)
と、テレビをご覧になっていた方々が大体想像していた通りの決算となりました。
しかし、これでも2020年10月27日に開示した通期業績予想と比較すると、売り上げは 第4四半期における国内線需要の低迷などにより、113億円 下振れしましたが、
営業損失は+402億円、当期純損失は+1,053億円の改善となり、 費用面での対応を中心に、ANAの努力を積み重ねた成果が現れたので、ANAにとっては苦しい中なんとか踏ん張った決算であったと言えます。
次に、基幹ビジネスである航空事業の事業別分析をしていきましょう。
ご覧の通り、ANA国際貨物を除いて非常に厳しい事業環境を強いられた形となります。
ANA国際貨物は、航空貨物市場での需給バランスの逼迫という特需に恵まれたため、フレイターを最大限に活用して、生産量を拡大しました。
また、高単価需要の獲得も強化したことにより、下期の売上高は、上期の2.2倍の1,096億円となりました。
国内旅客、国際旅客については各国の出入国制限、国内でも緊急事態宣言などの人流の抑制などが響き苦しい1年となりました。
一方、コストが安いPeach国内線は、レジャーやVFRをターゲットに、需要の取り込みに成功しました。また、コロナ後の需要構造を見据えて、沖縄や中部発着など、新たに10路線を開設し来期以降の利益貢献に備える形となります。
次に、財政状態を見ていきましょう。
2020年度決算 財政状態
ANAホールディングスの2020年度の財政状態は、下記の通り、
自己資本比率41.4%(▲10ポイントダウン)
有利子負債残高16,554億円(+8,125億円と倍増)
D/Eレシオ1.6倍(+0.8倍と倍増)
と先述した経営成績を鑑みると当然ですが、非常に課題を残す結果となってしまいました。
本来であれば2020年は東京オリンピックもあり、海外からの旅行者も多数想定される中、ANAは積極的な投資を行いつつも、きちんとD/Eレシオも1倍を切ってきちんとした財政規律の下、企業経営を行ってきました。
経営成績でも大幅赤字を計上して打撃を受け、資金繰りという点でも課題を残す形となったので、後述する通り、多額の借り入れを行い、有利子負債残高が多く増加してしまいました。
2020年度決算 キャッシュフロー
ANAホールディングスの2020年度のキャッシュフローは、先ほどの財政状態を連動しますが、非常に厳しい形となってしまいました。
営業キャッシュフローの赤字分を、資金調達を実行した財務キャッシュフローで補い、2021年3月末時点での期末キャッシュ残高を期首の約3倍に当たる3,703億円としました。
ここで投資キャッシュフローが▲5,957億円と非常に大きくなっておりますが、これは一時的な手元資金残高の増加に伴い、約4,900億円の定期・譲渡性預金への預け入れを行ったことに起因しているようです。
基本的には、資金調達をしてお金を借り入れている以上、航空機を中心に投資を抑制し、ビジネスベースの投資キャッシュフローは抑えています。
それにしても着目すべきは生き残りをかけた財務キャッシュフローの大幅プラスです。
資金調達の実行により、 1兆981億円の収入となったので、これをいかに有効に活用していくかが2021年度以降問われてきます。
参考までに実質フリーキャッシュフローの推移を追ってみましょう。
先述した通り、2020年度は営業キャッシュフローが常にマイナスでありました。
ですので、この営業キャッシュフローのマイナスと、抑制したにも関わらず発生してしまう投資キャッシュフローのマイナスを、常に借り入れの財務キャッシュフローが補って、なんとか期末キャッシュ残高を大幅なプラスで仕上げた推移が読み取れるかと思います。
それでは、ANAの来期2021年度の業績見通しを見ていきましょう!
ANAホールディングス 2021年度
2021年度 通期業績予想
それでは下記にて、ANAホールディングスの2021年度の通期業績予想を見ていきましょう!
売上高13,800億円(前年度+6,513億円)
営業利益+280億円(前年度+4,927億円)
親会社株主に帰属する当期純利益は、35億円(前年度+4,081億円)
となんとか来期は黒字に回復する見通しを立てております!
この営業利益、純利益の黒字化に向けて、2020年度も業績を伸ばした貨物事業での大型フレイター(B777-F)の更なる活用等が挙げられておりますが、
私が最も着目したいのは、リソースの圧縮(機材・人財)によるコストカットです。
2021年度 リソースの圧縮(機材・人財)によるコストカット
下記に挙げております通り、機材への対応として、主力ブランドであるANAブランドを中心に航空事業の規模を一時的に縮小し、LCC事業に切り替えることでコロナ禍を乗り越えるシナリオを立てております。
また社員への対応として、希望退職者の募集、新卒社員を抑制することで固定費の削減を深掘りして、ユニットコストを着実に改善する青写真が描かれております。
稼ごうにも、稼ぐための環境が用意されていないのであれば、利益を捻出するためにコストカットに乗り出すのは仕方がなく、当然の経営判断だと言えます。
引き続き苦しい状況が続きますが、なんとかコロナ禍を乗り越えて欲しいと願うばかりです。
ANAホールディングス 決算総括
2020年度のANAホールディングスの決算の総括ですが、ニュースで普段聞いている航空業界の厳しい現状を定量的に把握でき、この苦しい状況があと数年は続くのではないかという感想を抱かざるを得ないものでした。
稼ごうにも、国際線で出入国制限が行われるなど稼ぐ機会すら失われているANAができることはコストカットくらいですので、2021年も引き続き2020年度に借り入れた貴重なキャッシュを維持すべく厳しい経営が迫られると想定されます。
しかし、コロナ禍さえ過ぎ去ってしまえば、空のインフラであるANAは息を吹き返すと思いますし、海外出張時の一ユーザーとしてとにかく頑張って欲しいという気持ちしかありません。
2021年度も四半期ごとにANAの決算を読み解いて、業績回復の兆しがあれば皆様にお伝えして低迷する投資判断に関する情報も合わせてご報告させて頂きたいと思います。
頑張れANA!
今回の分析は以上となります。
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